10 小さな木製の机、そしてその上にあるノートパソコン。 隣には今ではあまり見かけなくなった黒い電話。 DEADMANは、椅子に座ったまま、思案にふけっていた。 __________転職でもしようか・・・ 最初は善意ではじめた仕事だった。 傷ついた誰かのために。苦しむ誰かの身代わりになるために。 痛みを快楽と感じる彼にとって、それは趣味と実益を兼ねた仕事だった。 黒電話から聞こえる依頼者たちの声は、いつだって悲壮感が漂い 苦しんでいるように聞こえた。 それを救っているといえばおこがましいかもしれない。 ただ、救うための努力を、彼は行ってきた。 仕事内容はいつも変わらない。 ただ、依頼者の思考が変わってきていた。 彼の仕事は、依頼者の代わりに自殺をする自殺代行。 それが今では、見世物のようになってしまった。 身代わりではなく、ショー、エンターテイメント。 本気で死にたいんじゃない。 彼が死ぬ姿を見たいだけだ。 「早く死ねよ、このたまごやろう」 そう罵倒されたこともある。 「お前の黄身がみたいんだよ、キミィィィィィィィ!」 今思えば、あの依頼者はどこか、おかしかったのだろう。 __________どこで歯車が狂ったのだろう? きっといつかの依頼者が面白おかしく吹聴したのだろう。 彼はピエロに、成り下がってしまった。 彼はゆっくりとドアを開け、外に出た。 彼の住む場所の裏手には、霊園がある。 だから、家賃が安い。それはここだけの秘密。 彼は、その霊園の隅にある墓の前に座ると、静かに掌を合わせる。 __________見世物でも、いいか。本当に困ってる人もいるんだ。 彼は、誰かに、そっと尋ねる。 __________だよね? 穏やかな気持ちが、心に流れ込んでくる。 そう遠くない場所で、電話のベルの音が響く。 座っている彼にも、かすかにその音が聞こえた。 __________ウチの電話だ!行きます、すぐイキます。 さっきまでの不満は、消えていた。 彼は立ち上がると、自宅まで勢いよく走り出していく。 電話が切れないことを、祈りながら。 今日も彼は、どこかで血を流している。 それは自分のため。そして、きっと誰かのため。 大きな口で、笑顔を浮かべながら。 BACK TOP BBS |