Short Story…





Short Story No 09
バースデイ




「ママ、だっこ」
「また?もう、ユウちゃんは、甘えん坊ね」

母親は、正座に近い状態で座り、ユウイチを横向きに膝の上に乗せ、
揺り篭を揺らすようにあやし始めた。
ユウイチは、親指をしゃぶり始める。
よほど落ち着くのだろう。
指を銜えるのは、ユウイチの癖になってしまっている。

「今度はね、高い高いして」
「はいはい。でも、お母さんは力弱いからお父さんに頼みなさい」

母親がやんわりと断ると、ユウイチは横になったまま、
父親の方へ転がり、近づいていく。

「ほら、おいで」

父親は、力強くユウの両腋を抱えて立ち上がり、
天井近くまでユウイチを何度も持ち上げる。
それが嬉しいのかユウイチはきゃっきゃっと声を上げる。

「楽しいかい?」
「うん。」

父親は疲れたのか、ゆっくりとユウイチを床に寝かせ、胡坐をかく。
どこにでもある日曜の夜だった。

その団欒を引き裂くように、銃声のような、破裂音が部屋に響いた。
ユウイチと父親は、驚いて音の響いた方向を見やる。
そこには、母親が、クラッカーを手に笑っていた。

「あぁ、そうだったな、おめでとう、ユウイチ」

父親は、ユウイチの顔を覗き込み、笑顔で言った。
ユウイチは、やっと気付いたの?とでも言わんばかりの笑顔で
父親に笑顔を返す。

今日はユウイチの、30歳の誕生日だ。
ユウイチは、ケーキの上で煌々と輝いている30本のロウソクを
一息で吹き消すと、きゃっきゃっと無邪気に笑い出した。




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