Short Story…





Short Story No 14
二人




一人の男がいた。
彼には同じ会社で知り合った恋人がいて
彼は、彼女のことが大好きだった。
二人は同棲していて
いつも一緒、どこに行くのだって一緒だった。

彼女が、嬉しい時も
彼女が、怒った時も
彼女が、悲しんでる時も
彼女が、楽しんでる時も
彼女が、泣いていたって

彼は彼女のそばにいた。
いつだってそばにいた。
彼女が眠るまで、ずっと起きて寝顔を見つめ眠る。

愛しくてたまらない。
彼女は、彼の全て。

それから何ヶ月か過ぎて

しだいに、彼女が会社でミスをするようになった。
毎日、毎日、何度も何度も。
彼はもちろん彼女を心配した。
そして、彼女を励ました。
「ミスなんて誰だってすること」だと彼は言う。
それでも彼女は泣き止まない。

彼は彼女を慰めるため、彼女の好きなものを買ってこようと
近くのコンビニに走った。

そして彼がレジで清算している時に、彼女は事故にあった。
彼は慌てて走り、彼女を抱きかかえた。
息は荒く、そして止まった。
救急車を待つ暇もなく。

それから彼は抜け殻のようになっていった。
自分の全てを失ったのだから。
彼は、泣いた。
どれだけ涙を流したかわからない。
涙が枯れ、声も出ない。

彼は彼女が死んだ事故現場に向かい、車に轢かれた。
彼は彼女が好きだった。
だから、これは当然のことなのかもしれない。
彼はいつだって、彼女といたかったのだから。


話はこれで終わらない。
もう一つ。


一人の女がいたんだ。
彼には同じ会社で知り合った恋人がいて
彼女は、彼のことが好きだった。
二人は同棲していて
いつも一緒、どこに行くのだって一緒だった。

最初は、彼女も嬉しかった。
自分のことを愛してくれる。
寂しい時、抱きしめてくれる。
いつだって一緒で、一人でいる寂しさを感じることもない。
しかし、それは最初のうちだけだった。

何ヶ月か経った頃

目に見えない彼の嫉妬や束縛が、
彼女の鼻につくようになった。
いつも彼はついてくる。
一人でどこかに行くこともできない。

どんなに苦しんでも
離れることも、できない。
彼女はとても弱かった。

一人の時間が欲しいけど
彼はそれを許してくれない。
同じ家に住んでいるのと、同じ職場という問題が邪魔をして
彼に別れを言うこともできない。

彼に対し、怒鳴っても
彼に対し、頼んでも
彼に対し、泣いたって
彼は、一人になる時間をくれない。
そして、別れてくれない。

彼は眠らない。私が眠るまで。

そんな監視をされているような生活が続き
彼女は、少し、おかしくなった。
何もかもが、不満で、負担で
仕事でもミスを多くするようになった。
そのミスはプレッシャーとなり、またミスが続くという
悪循環を生み出していった。

彼女は泣いた。人目も憚らず。
「ミスなんて誰だってすること」だと彼は見当違いのことを言う。
愛ってのは恐ろしい。そして盲目。
彼は、自分が邪魔であることを理解していないんだから。

彼女は、道路へ飛び出す。
発作的に。




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