Short Story…
Short Story No 17
正当防衛
彼は、金属製のバットを持って立っている。
グリップを握る彼のその手には、強く力が込められている。
何度、素振りをしただろう。
何度、マメを潰しただろう。
硬くなった掌が、彼の執念、そして決意を物語っている。
それも全てこの日のためだ。
彼は、そっと扉を横にスライドさせる。
彼の目的の男は、壁際の机に腰掛け、携帯電話を手にメールを確認している。
彼は、足音を殺し、無言で男の背後から近づくと、その背中めがけ、思い切りバットを振った。
金属製のバットは、空気を裂き、男の背中に振るわれ、鈍い音を立てる。
同時に、男は、その衝撃で吹飛ばされ、壁に叩きつけられた。
机が倒れ、椅子が弾き飛ばされた。
小さな悲鳴が聞こえる。
その声は、痛みを訴える声に変わり
その声も、言葉にならない声へと変わった。
つぶられた左目、彼を見つめる右目、驚愕の表情、涙。
そして、声は何かを哀願する声に変わり、
空気を裂く音と、鈍い音の後に、途切れた。
声は聞こえない。
ただ、鈍い音だけが、誰もいない教室の中、何度も響いた。
彼は何事かを警察に話している。
場所は狭く、そして薄暗い。
時間はもう、8時を回っていた。
血で染まったシャツを着たまま、彼は、興奮するでもなく
淡々と心情を絡め、事情を説明している。
「いえ、ですから、それは間違いなんです。
僕は、いじめられていたんですよ。毎日毎日。もう、学校を辞めることも考えていましたし、
死ぬ覚悟もしていました。実際、アイツを殺さなければ、僕は自殺していました。
これは間違いありません。死んでいたんです。僕は、死ぬところだったんです。
言うなれば、僕はアイツに殺されそうだったといってもおかしくないんですよ。
いや、アイツに殺されるところだったんです。だから、これは正当防衛で・・・」
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