Short Story…
Short Story No 23
スミレ
彼女は僕に、とても優しいんだ。
遊びに行けばいつだって優しく笑顔で迎えてくれる。
性格だって最高。
一緒にいて怒ったところを見たことがない。
いつだって微笑を浮かべ、さりげなくサポートをしてくれる。
髪の毛はね、ロングで少し茶色。
とても自然な栗色っていったとこかな。
化粧は薄めだけど、アイシャドウはくっきり入れてる。
マスカラも少し強めかな?いつもパッチリとしてるんだ。
肌が荒れてるのか、頬には少し吹き出物があるけど
僕は、気にしたことなんて一度だってない。
声はまるで鈴の音を想わせるようで、凛として、とても聞き取りやすい。
笑うたびに右の八重歯が少しだけ見えるのも、
彼女のチャームポイントだと、僕は思っている。
この八重歯に惹かれたのかもしれないな。
そんなことを思いながら、僕は、彼女の顔を想像する。
彼女は口数が少ないけど、誰も聞いていないのに、
自分のすべてや今日の出来事を、自己中心的にペラペラと話し続けて、
同意を求めてくる奴なんかより、断然素敵なんじゃないかな。
ネイルケアは苦手なのか、マニキュアをつけてるのを見たことがない。
その手は、昔、ピアノでも習っていたのか、細く綺麗だ。
年甲斐もなく、手が触れただけで、愛しさが僕の心を支配する。
香水とかはつけてない。
僕から見た彼女のイメージは、清楚、可憐、そんな感じなんだ。
バラの花のように煌びやかではないけれど、
一輪のスミレを思わせるその立ち振る舞いは自然で、
誰の目から見ても、好印象だと思う。
バラには、棘だってあるしね。
僕は、毒々しいバラの不自然な赤よりも、スミレの淡い紫の方が好きだ。
これは多分、僕の性格の問題なのかもしれない。
うまく人と話すことができない僕は、ひっそりとしたものを、
深層心理で好んでいるのかもしれないから。
僕は、こんな性格のせいか、自己主張が強い奴は嫌いで、
自分を面白いと自負してる奴には吐き気がする。
全て、俺が俺が、私が私がって、自分をそんなにアピールすることで、
何のメリットがあるのかよくわからないし、
人のことを考えて行動して欲しいと、常日頃思っている。
まぁ、口には出せないし、そんな相手と話す時は、
愛想笑いを浮かべて、ただ聞き役にまわるんだ。
その方が、会話が早く終わるからね。
正直に言えば、そんな奴らとは、同じ空気も吸いたくないけど、
そうも言ってられないのが、この現代の悲しいところ。
僕が口を噤もうとも、誰かと話をしなくても、電車やバス、公共の乗り物や
施設に行けば自然と耳に入ってくる。
だから、携帯型のオーディオプレーヤーでも買う予定だ。
ついでに、いや、ついでにってわけじゃないけど、
彼女のプレゼントの下見もしようかな。
よし、彼女に会いに行こう。
「いらっしゃいませ」
ほら、昨日だって、今日だって、彼女は僕に笑いかけてくれる。
いつも通りの笑顔で。
そういえば、僕はまだ、彼女の家も知らない。
今度、こっそりと調べておこう。
彼女を驚かすためにね。
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