Short Story…
Short Story No 39
優良ドライバー
その車のフロントガラスは汚れている。
彼は言う。俺は、模範的な運転手だ。と。
その車のワイパーは汚れている。
彼は言う。俺の免許はずっと、ゴールドだ。と。
その車のサイドスカートは汚れている。
彼は言う。俺は、1度のスピード違反もしたことはない。と。
その車のリヤスカートは汚れている。
彼は言う。俺の慎重な性格は、運転手向きだ。と。
その車のサスペンションは汚れている。
彼は言う。俺は、酒も飲めないから、飲酒運転で捕まることもない。と。
その車のマフラーは汚れている。
彼は言う。俺は、煙草も吸わないから、煙草を落として慌てることもない。と。
その車のフロントスポイラーは汚れている。
彼は言う。俺の視力は両目とも1.5だから問題ない。と。
その車のエアロミラーは曲がっている。
彼は言う。加えて、この道は、見通しのいい道だ。と。
その車のヘッドライトは割れている。
彼は言う。だから、俺が人をはねるわけがない。と。
その車のフロントバンパーは醜く歪んでいる。
彼は言う。俺が、二人も人を轢いたなんて、気のせいに決まってる。と。
その車のボディは汚れている。紅く血で、汚れている。
彼はまた言う。気のせいに決まってる。と。
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