Short Story…





Short Story No 57
DV



今日、私の父が、癌で亡くなった。
54歳だった。

小さな病院の小さなベットで、静かに息を引き取った。
闘病生活は苦闘の連続だったと思う。
抗がん剤の副作用は、他の薬に比べて非常に強いから。

悪心、嘔吐、脱毛、白血球減少、血小板減少、肝機能障害、腎機能障害。
数え上げればきりがないくらいの副作用。

抜け落ちた髪や、こけた頬がそれを顕著に表していた。
本当に辛かっただろうと思う。
私たちよりも、ずっと。

精神的にも、肉体的にも。辛かったのだろう。
ぐったりと悲壮な顔で、ベットに横になる父。
以前の父とは比べものにならないくらい気弱だった。

以前の父は、仕事柄、強く逞しかった。
お酒を飲んで暴力を振るうこともあったけど、時には優しかった。
一度、お酒を飲んだ父が暴れ、それを止めようとした弟が父に殴られたことがある。
そのせいで、弟は右目を失明した。
それ以来、二人は、ほとんど話をしなくなった。


「もう治ることはないと思います」


父の病状を語る、お医者さんの言葉を聞いてからというもの、
私は、父が亡くなるその時まで、学校の授業が終わるとすぐ病院へ向かった。
一人暮らしをするために始めたバイトの時間を極端に減らし、
何度も病院に足を運んだ。

それとは対照的に社員寮に住む弟は、見舞いにくることはかった。
それも仕方ないことだと思う。

でも私は、父の顔を見たかった。
大嫌いな父の、苦しむ顔を見たかった。

父が亡くなった時、私は、泣いた。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、泣いた。
きっと弟も、喜んでくれるだろう。



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