Short Story…
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Short Story No 60
金魚の刺身
俺の好きなものは、赤い。
トマトは特に、好きだ。
飼っていた、金魚が死んだ。
鮮やかな色をした和金。
一匹や二匹じゃない。十数匹。
「死んだ」ではなく「殺した」と言うべきだろうか。
原因はわかってる。餌を入れすぎたからだ。
大量に浮かぶ餌に紛れ、虚ろな目で浮かび流されていく金魚。
僕を、恨んでいるんだろうか。
網で、一匹づつすくう。
漂う金魚の餌が邪魔臭くて仕方が無い。
金魚を水で洗い、皿にのせた。
生き物を殺すことには抵抗がある。
生きているものを、刃物で刺すことは、特に。
そんな機会は、ほとんど無いけれど。
生臭いのは、嫌いだ。
それに、生きたまま内臓を取り除くのは難しい。
だから死んでもらった。
別に、下手物が好きなわけじゃない。
ただ、食べるものが、もうなかったんだ。
金魚の刺身って言葉がある。
綺麗だけど、食べれないって意味。
どう思う?
僕は別に、そんなことないと思うんだけれど。
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