Short Story…
Short Story No 74
こだわり
多かれ少なかれ、誰にでもちょっとしたこだわりがある。
それは料理だったり、歩き方だったり、髪型だったり、多種多様だ。
人によっては、癖にも似たこだわりを持っている奴をよく見かける。
特に喫煙者。多いか少ないかなんて知らない。
右手に煙草を持つ奴、左手に持つ奴。
人差し指と中指で煙草をはさむ奴、俺の好きな映画の登場人物みたいに、
中指と薬指で、また、親指と人差し指で煙草をはさんだり持ったり。
フィルターを噛む奴もいれば、更にフィルターを付ける奴もいる。
ライターを使わず、マッチで火をつける奴もいれば、
ライターがいいって奴も。
ジッポにこだわり、何十万もする物を持ってる奴だっている。
そもそも多くの銘柄がある中、1つの銘柄を選ばなければいけない時点で
嗜好や好み、こだわりやコレクションなんてものが生まれるんだろう。
それは煙草だけじゃなく、何でもそうなんだと思う。
俺のこだわりは灰皿。
煙草を吸わない奴にはわからないかもしれないが、
気に入ったものを見つけるのは、なかなか難しい。
大きすぎても駄目だし、小さくても、硬すぎても駄目。
それでもこの前、ようやく気に入ったものを手に入れた。
いくつも灰皿を変えたが、ようやく理想とする灰皿に出会えた。
俺は、階段を降り、灰皿のある部屋に行くと、ゆっくりと煙草に火をつける。
煙草を吸うのは、いつもこの場所だ。
しばらく紫煙を漂わせ、フィルターまであと数ミリに迫った煙草を
灰皿に押し付ける。
ジュッという花火を水につけたような、肉の焼ける音。焦げ臭い。
きっと熱いだろう。苦痛に歪む、その表情がたまらない。
口をガムテープで塞いでるっていうのに、
いい声で喚くんだ。この灰皿は。
こんないい喚き声の持ち主に出会ったのは初めてで、
本当に、興奮する。
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