Short Story…





Short Story No 82
猫の目



彼女と、別れなければよかった。

そんなことを考えたってどうしようもないことだってわかっている。
でも、彼女は僕にとって、かけがえの無い人だった。
きっと、もう、代わりなんてみつからない。
綺麗で、性格も良くて、優しかった。
趣味も、笑うツボも一緒で、いつだって僕は楽しかった。
君は、パッとしなくて垢抜けない僕には、もったいないくらいの素敵な彼女で、
友達だって羨ましがってた。

交わした言葉、一緒に行った場所、買ったもの、記念日。
僕は、君との思い出は全部覚えてる。
本当に君が好きだったから。

別れたのは、僕が悪いんだろうか?
いつもウジウジして、優柔不断で、そのくせ利己的で、情けない。
そんな僕を嫌いになったと、彼女は言った。
前は、猫みたいでかわいいって言ってくれていたのに。

もう少し、食い下がるべきだったんだろうか?
気取らず、駄目だとわかっていてもすがりつくべきだったんだろうか?
恥も外聞もプライドも全て捨てて、懇願するべきだったんだろうか?

僕は、格好悪いところを見せたくなかった。
見栄を張っていたのかもしれない。
強い振りしていたけど、本当は弱くて、情けない。
別れてからもう、3ヶ月も経つっていうのに、まだ、君を忘れられないでいる。
携帯のメモリだって、まだ消すことができてない。

声を聞きたい。

でも、疎ましく思われるのが怖くて、電話できずにいる。
メールにしたってそう。
もしかしたらアドレスを変えてるかも。
僕はどうしたらいいんだろう。電話、するべきなんだろうか?
そんな事を考えていると、携帯が、鳴った。

ポケットに入れた携帯から流れ出す、聞きなれた着信音。
彼女用に設定していたの着信音だ。
着信?いや違う、これはメールの呼び出し音だ。

届いたメールを見るのが怖い。
反面、もしかしたらって淡い期待もある。
二つ折りの携帯を開き、新着のメールを読む。


{読んでください}

{久しぶり、元気ですか?ちょっと言いにくいんだけど、あのね、別れてから
ずっと生理が無くて、最初は遅れてるのかなって思ったんだけど、違うみたいで、
ちょっと話できないかなと思ってます。いつでもいいので連絡ください}


僕は、メールを消去し、彼女のメモリを着拒リストに加える。

彼女と、別れてよかった。
よく考えれば、あの程度の女、別にどこにだっているもんな。



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