Short Story…





Short Story No 86
インターフォン



インターフォンを鳴らされると、イライラしていた。

あの音が好きだって奴を、俺は知らない。
昼夜逆転してる生活なんてしてれば、昼は夜、夜は昼みたいなもので、
体内時計も、ある意味正確に時を刻んでいる。

真夜中や、深夜、もしくは休んでいたい休日の早朝なんかの突然の来客。
ドアを開ければ、招かざる客。
こんな状況を喜ぶ人間なんているわけがない。
いるとすれば、寂しがり屋か、少し変わった趣味の持ち主なんじゃないかな?

インターフォンが鳴った時、いつも、どうするか考えていた。
ドアを開けるべきか、開けざるべきか?
開ければ開けたで、薄汚い作り笑顔を浮かべた他人の顔がある。
慇懃な態度で、何かを薦め、断れば嫌な顔、舌打ち。
頭にくる。

かといって、出なければ出ないで、あれは一体誰だったのか?
なんて小心者根性丸出しで悩んでしまう。

くだらない浮世のしがらみ。
迷惑なことだとわかっているはずなのに、誰もやめない。

ポストに入っている、広告やチラシという名のゴミ。
無造作に捨てられた缶や吸殻も似たようなものなんだろう。
別に気にしないって奴もいれば、神経質で頭にきてる奴もいる。
俺は後者だった。

今では、インターフォンが鳴るのを、本当に心待ちにしている。
理由は簡単。
責任をとってもらうことにした。
相手は別に、誰でもいい。

玄関のドアの隣には台所。
すぐに包丁が出せるようにしてる。
料理なんてしないから、包丁は研ぎ澄まされてる。


NHKの集金だろうが、
どこかの新聞の勧誘だろうが、
チラシ撒きだろうが、
糞みたいな健康食品の販売だろうが、
効かない健康器具の販売だろうが、
胡散臭い宗教の勧誘だろうが、
どこかの業者の意味ない挨拶回りだろうが、
不幸を喰いものにする保険の勧誘だろうが、
金に困ってる空き巣だろうが、
押し込み強盗だろうが、
何人も殺してきた殺人鬼だろうが、
頭のおかしい変質者だろうが、
男だろうが、
女だろうが、
老人だろうが、
子供だろうが、
誰でもいいから、
なぁ、インターフォンを鳴らしてくれないか?



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