Short Story…
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Short Story No 87
寿司
友人が働く寿司屋は、老舗で、評判はとてもいい。
ネタの鮮度や品質には、とことんこだわり、古いネタを出すことは皆無だ。
老舗ならではの趣のある佇まいは、その店の歴史を物語り、
黒光りする建物のは威厳を感じさせる。
創業は、明治四十年。
駅前の細い路地、薄暗くも仄明るい、橙の街灯が連なる場所にある。
普段は予約のみだが、新規の客を獲得する為に定められた、
予約を一切受け付けず営業する水曜日の夕方ともなれば、
一度はその味を堪能したいという客が押し寄せ、多くの行列ができる。
芸能人もよく来る店で、TVでよく見るグルメレポーターも
プラベートで訪れる店だと、友人はそう言ってた。
また、客の中には、きつすぎる香水の臭いを放つ、若い客や、
おもむろに灰皿を探す中年の客もいて、それには閉口するとも。
僕はまだ、その店には行ったことがない。
値段が問題でも、時間が問題でもない。
彼が大将と呼ぶ、店主は思ったよりも若いらしい。
だが、見るからに頑固そうで、がっしりした体格や、野太い声が、
店主としての風格を漂わせると教えてくれた。
仕事が終われば気さくで優しく、よく飲みに誘われると。
僕は友人が、先輩たちとも仲良くやっている知り、安心した。
店主は、強面に似合わず、身体が弱く、
吹き出物や、手荒れもひどい。
だから、あまり手を洗わないし、よくハンドクリームをつけて寿司を握る。
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