Short Story…
Short Story No 89
5個の携帯
全ての電源を切った。5個全ての携帯の電源を。
騒がしいのが苦痛だった。
だから、高校に行くのを、やめた。
クラスの馬鹿どものくだらない話に頷き、
話題を探し、会話を合わせるのが嫌になった。
帳尻を合わせるように、愛想笑いを浮かべるがたまらなく苦痛だった。
以前はこんなこと思いもしなかったのに、
いつからこうなってしまったんだろう。
自分が孤独を望んだところで、複数の人間いるこの空間では、
誰もが、お構いなし、自己中の集り。
猿の集団となんら変わりがない。
俺の前の席の奴は、薄汚い笑顔で、毎日、自慢げに何事かを話し始める。
願望、愚痴、嫉妬、芸能、歌。
くだらない、そんなのどうでもいい。
全てがどうでもいい。
他の奴は、そいつの話を聞いて、わかるわかると頷き、笑う。
馬鹿みたいだ。
いや、馬鹿なんだろう。
何が、楽しいんだ?
何が、面白いんだ?
鏡とでも、話せば良いのに。
学校を休む理由を、親には言わなかった。
ただ、行きたくないとだけ、答えた。
蔑みにも似たこの感情や、瘴気を理解できるはずもないから。
最初は、心配していた親達も、1週間を過ぎた辺りから、
次第に口煩く復学を薦めるようになった。
あなたのためだから。
そう思うなら放っておいてほしかった。
だから、部屋に引き篭もった。
耳栓をし、部屋に鍵をかけ、ヘッドフォンをつけ、静かな音楽を流した。
それでも、耳障りな音は聞こえてくる。
それは音楽と音楽の境目の空白の間に聞こえる談笑。
ただ、その談笑は罵り合う声に変わっていった。
うるさいのも、煩わしいのも嫌いだ。
だから、1人で暮らすことにした。
そうすれば、誰にも関わらないですむ。
だから、今は快適だ。
耳栓もヘッドフォンも外した。
誰にも邪魔されない空間が、こんなに心地良いいものだと初めて知った。
その静かな空間を、携帯の着信音が。邪魔する。
俺は、鳴り続ける携帯を探した。
携帯は、リビングに、あった。
探している間に、携帯の着信音は止んだ。
携帯は、兄の物だとわかった。
舌打ちを鳴らし、兄のスーツのポケットから携帯を取り出す。
もう、邪魔されるのは御免だ。
リビングの父と母、祖父と祖母の死体のポケットを漁り、携帯を取り出すと、
全ての電源を切った。5個全ての携帯の電源を。
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