Short Story…





Short Story No 90
3つの結末



どうして、泣くのよ。

ミルクはあげたばかり、オムツはさっき変えたばかり。
玩具で、あやしても、泣き止んでくれない。
いつもなら、抱っこや、高い高いをすれば、
泣き止むっていうのに。

いい身分よね、赤ちゃんって。
ただ泣いてればいいんだから。
そうすれば、誰かが世話してくれる。
毎日毎日、昼夜問わず泣いて、泣いて、泣いて。
私の方が泣きたい。

私なんて、ホクロと傷痕のせいで、
いつも、誰からも構ってもらえなかったのに。


昔から、ずっと。
今だってそう。


昨日も、一昨日も、あの人は帰ってこない。
別の女の家に行ってるのはわかってる。
でも、それを問いただしても、どうしようもない。
私には、行く場所も、お金も、信頼できる友達さえいない。

あの人は、私が妊娠した時、ひどく嫌そうな顔をした。
あの目は、きっと一生忘れない。
目、そう。この子の目は、あの人にそっくりだ。
目だけじゃない、鼻も、口元も、本当に似ている。

腹が立った。どうして私ばかり不幸を感じなきゃいけないんだろう。
ずっと押し殺してきた感情が、爆発しそうだった。
うるさい泣き声、喚き。


喉に何かを詰まらせたら、この子、死なないかな。


この子の年なら、物を、自然に口に運んだって、
なんら不思議じゃないと思う。
私は、目を離してるだけでいい。
そう、ちょっと、目を離してるだけ。

私は、部屋の隅から、小さな玩具を取りだし、
そっと、床に……






置こうとして、思いとどまった。
何を考えていたんだろう。
疲れてるんだ、そうに違いない。
そう、この子さえ泣きやめばいい。

私は、そっと我が子を抱きかかえ、立ち上がり、あやした。
耳に響く、甲高い泣き声、うるさくて、気が変になりそう。


ここから、落としたらどうだろう。


もう、何も考えたくなかった。
我が子を、支えている手を離した






なら、きっとこの子は、頭から床に叩きつけられ、
私は煩わしい育児から解放される。
でも、やはり私にはできない。

私もこんなに泣いたの?ねぇ、お母さん。

私は、自分の後頭部にある古傷を、さする。
この子と同じくらいの歳にできた、大きな傷を、そっとさする。



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