Short Story…





Short Story No 106
最低な男



世の中には、凄惨な事件が多い。
昨夜、僕の住んでいるマンションで、殺人事件が起こった。
短絡的な犯行。

犯人は、23歳の一見ごく普通の大学生。
年齢を考えると、多分、1浪か2浪しているんだろう。
僕の隣に住んでた。

殺害方法は、絞殺。
犯人は、手で、首を絞めた。
殺すつもりはなかったのか、それとも慌てていたのか、
指紋も拭き取ろうとせず、逃げた。

顔は、何度か見たことがある。
彼女といる時、よくエレベーターで乗り合わせたから。
同じ階だってだけでも薄気味が悪かった。
あの不気味で、陰鬱な瞳は、忘れようにも忘れられない。
今思えば、深夜によく聞こえてた奇声も、あの男が発してたんだろう。

動機はわからない。
犯行後、1時間もせずに、飛び降り自殺したから。
このマンションで。

他にも解らないことも多いが、周辺の誰かや、
マンションの住民に、聞き込みをしたところで、
一般的な人物像しか、浮かび上がらないだろう。
もしくは、誰も知らないかもしれない。
あんな気持ちの悪い、最低の男。

それに、もう死んでる。
動機なんて、本人以外にわかる奴なんかいない。

すでに解決した事件。
警察も、必死になって手がかりを探したりはしないだろう。

犯行時刻、僕は、洗濯物を乾かそうと、コインランドリーに行ってた。
そのたった1時間かそこらの間の犯行。
犯人が殺したのは、隣の部屋の女。
つまり、僕の部屋、そして、僕の部屋にいた彼女だ。

僕は想像する。

このマンションは壁が薄い。
犯人は聞き耳を立てていたのかもしれない。
僕が出かける声、鍵の音、それを聞き、そっと自分の部屋を出て、
インターフォンを押す。
僕だと思い彼女はドアを開け、そして、運悪く彼女は、殺された。
乱暴が目的だったのか、金銭が目的だったのか、
それとも、僕達の声がうるさかったのか、ただストレスのせいか、
もしかしたら病気だったのかもしれない。
原因はわからない。きっと一生、わからないだろう。
ただ、僕は、自分の運の強さを、神に感謝する。
本当に、僕じゃなくてよかった。
心から、そう、思う。

どうせ、もうすぐ別れようかと思っていたし、
彼女なんて、他にもいるから。



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