Short Story…
Short Story No 108
一途
彼は、私を捨てた。
まるで、ゴミを捨てるみたいに簡単に捨てた。
あの冷ややかな、瞳は忘れられない。
何年も付き合ってきた彼女に対する仕打ちとは思えないくらい。
でも、まだ、愛してる。
心の狭い男って嫌い。
彼は、よく、ちょっとしたことで怒る。
それはとても些細なことでも、
自分が気に入らなければ、文句を言ったり、物に八つ当たりする。
それに、口うるさいいし、説教する癖があるし。
もしこれが、彼以外の男なら、とっくに別れてる。
でも、ホントに細かいことで彼は怒る。
私が、お風呂が嫌いなこととか、メイクをしたまま眠ったりとか、
洗い物しないとことか、部屋を散らかしてるとことか、
ゴミ捨てるの面倒だって思ってるとことか、電気つけっぱなしにする癖とか全部。
汚いからとか、もったいないからだって彼は言うけど、細かすぎ。
あんまり言いたくはないけど。
今回だってそう、たかが浮気したくらいくらいで、
そんなに怒らなくてもいいじゃない。
彼以外の男に、私が、本気になったりするわけないのにさ。
でも、ばれた私にも責任がある。
ホント迂闊だった。
でも、大したことじゃないし、彼もわかってくれると思う。
私は、今、6階にいる。
彼のマンションの部屋の前にいる。
彼への釈明の言葉は、もう考えてある。
随分長い時間、考える暇があったから。
後は、きちんと説明して、要所要所で、涙をうまく使えば、
きっと彼は、また私を愛してくれる。
早く彼に、会いたい。
インターフォンを何度鳴らしても、彼は出てこない。
電気はついてるし、彼の好きな音楽も、ドア越しに微かに聞こえる。
私に会いたくないのかな。
今日で4日目。
私は、ずっと、ここにいるのに。
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