Short Story…





Short Story No 109
バスタイム



今日も、目が覚める。

早起きは、三文の得だなんて言葉を聞くが、本当だろうか。
毎日毎日、朝早くに目が覚めるが、毎日いい事なんて一つも、ない。

頭が重く感じる。
睡眠が足りていないことを危惧し、もう一度布団の中に潜りこんでも、
眠りは訪れてくれない。
目を閉じ、呼吸を整えても、体勢を変えても、何も変わらない。

カーテンを開ける。
眩しすぎるくらいの朝日が、目を射す。
鈍い眼球の痛み。

体を起こし、ため息をつき、
目をシパシパさせながら、顔を洗い、バスタブに湯を張る。

睡眠は不思議なものだ。
ただ、眠りが訪れるまで目を閉じ、待つだけの行為。
ただ、待つだけ。
空腹や、尿意とは違う。
病院で処方された睡眠導入剤も、自分には合っていないらしく、
効果もなければ、気分が悪くなり吐いてしまう。
体操も、アルコールも効果なかった。


ゆっくりと眠った日は、心地良く熟睡できた日は、いつのことだっただろう。


蛇口から流れる、熱くもなく、冷たくもないお湯を、
触りながら、そんなことを思う。
毎日の多忙やストレスが原因かもしれない。
そして、人間関係も。

今日は休日、どうせ誰からも電話がかかってくることもない。
話したい相手は、いない。
話せる相手も、いない。
特に行きたい場所もあるわけじゃなく、
店だって開いていない。

毎日毎日眠れない。何ヶ月もほとんど眠れてない。
睡眠が1時間や2時間なんて、それが普通になってきた。

子供の頃、1日24時間起きていられれば、
どれだけ楽しいだろうなんて空想した。
現実を知った今では。ただの苦痛でしかない。

きっと、今日も、眠れない。
明日も、明後日も、多分ずっと眠れない。
毎日楽しくもないし、せめて、ゆっくりと眠りたかった。、

湯が溜まったバスタブの中で、欠伸をし、首を回す。
そして、また、ため息。
やせ細った腕。その手には、剃刀。



back