Short Story…





Short Story No 118
ここから



もし、ここから飛び降りたら、どんな気分だろう。

僕はいつも、考えてる。
僕はいつも、この場所で考えてる。

下を見れば、車や信号、誰かの歩いてる姿が見える。
それはとても小さくて、まるで精巧なミニチュアみたいだ。
大きな石でも投げれば、全てを壊せるような錯覚を感じるほど、小さい。

前を見れば、ビルやマンションの明かりが眩く輝いている。
深夜だというのに、その明かりは消えることもなく、
靄のように、うっすらと空を照らす。

名前も知らないマンションの最上階の階段に座り、
ただぼんやりと、明日のことを考える。

でも、考えるのは、好きじゃない。
もう、考えすぎて、何もしたくない。

それでも明日はやってくる。
あと何時間もすれば、空に朝日が昇り、線路に始発の電車が走り、
往来には、多くの車と人が行き交う。
昨日と同じように。
一昨日と同じように。

僕も、その雑踏に紛れ、飲み込まれていく。
昨日と同じように。
一昨日と同じように。

ここから飛び降りたら、何もかも忘れられるかな。
悩みや、不安、嫌な過去や未来も全て、忘れられるかな。

きっと、楽だろうな。
きっと味わったことのないような、
浮遊感や、恍惚感を感じられるんだろうな。












ほらね。



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