Short Story…
Short Story No 121
取り柄
彼女は、言った。
「私は、何の特技も才能も無いんだよ。
だから、誰でもできるような、この仕事をしてるの。
大学で学んだことだって、何にもならなかった。
全然、ホント全然関係ない仕事してるしね。
何のために大学行ったのって感じだよ。
もうお金の無駄だった。
仕事辞めようかって思うけど、
辞めたって、結局別の仕事しないといけないし。
新卒でもないし、年齢もネックで、今厳しいんだよね。
したい仕事もないし。
でも、働かなきゃ生きていけないし、嫌なんだよね。
もう、別に苦しくないならいつ死んだっていいし、
未練もないんだよね。
どこか遠くに行きたいな。
この街も、大嫌いだし。
けど、行く当てもお金もない。
馬鹿みたいじゃない?
何のために生きてるのかな。
こんな役立たずでさ、何の取り柄もないのに」
その目にはうっすらと涙。
浮かぶのは、自虐的な悲しい笑み。
隣にいた、彼女の友人と見られる男は、
そんな彼女の愚痴とも真情ともとれる言葉に、
深くは反論せず、聞き役にまわる。
そして、懸命に彼女のいい所を探し、褒め、励まし、説得し、優しく諭す。
彼女の取り柄である、その体を手に入れるために。
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