Short Story…
Short Story No 124
靴音
彼女はいつも、失恋してばかりだった。
彼氏ができても、いつも長くは続かない。
いつの間にか疎遠になり、音信も途絶えてしまう。
嫌われるのを怖がる彼女は、はっきりとした別れを恐れ、
自分から電話することができず、別れの理由を聞くこともしない。
そうして縁の切れた恋人との曖昧な別れを嘆き、ただ頬を濡らす。
いつもこんな、別れとも呼べないような別れ方。
自分から別れを告げたのは、一度だけ。
相手は、初めて付き合った彼氏。
自分から別れを切り出したのは、その相手の、
異常ともいえる愛情が怖くなったせいだ。
彼女は、実家で暮らしている。
彼女が、目を赤く腫らしている時、
両親は、悲しみの理由を聞かず優しく慰めてくれる。
何でもお見通しな、理解できる関係。
そして両親にとっては、大事な一人娘だから。
そんな彼女にも、また、恋人ができた。
相手は同じ大学のゼミ仲間。
今度の彼氏は、とても優しい顔つきをしてる。
性格も顔つき同様、優しい。
電話もメールもマメで、いつだって返事をくれる。
彼女は、喜んでいた。
交際は順調。
2人は歩いている。
大学から帰路に着くため、一緒に歩いている。
もう辺りは薄暗く、周りに人影も無い。
彼女は、ふと気付く。
背後から足音が、することに。
誰かにつけられている感覚、視線。
初めてではない。
いつものように、聞こえる靴の音。
彼女が誰かと付き合う度に、この足音は彼女を付け狙う。
しばらく歩き、わかれ道に差し掛かる。
彼女の家は右、彼氏の家は左。
彼女は、彼に向け、手を振り別れ、家に急いだ。
足音は、止んだ。
だが、しばらくすると、また、聞こえてくる。
彼女と同じ速度で、足音は彼女を付け狙う。
家まではもう少しだったが、
怖くなり、彼女は前から来たタクシーに乗った。
いつも、こう。
彼女が誰かと付き合う度に、その足音は聞こえてくる。
彼女は、悩み、嘆いた。
どうしていつもこんな目に、一体誰が、と。
彼女は考え、ふと気付く。
もしかすると、今までの恋人達との別れも、
全て、この足音を鳴らす相手のせいだったのかもしれない。
そして、きっと妨害されていたのでは、と。
明瞭な解答。
答えはその通り。
その男が、邪魔をしていた。
いつも、いつも、邪魔をしていた。
彼女を覗き、彼女の恋人を妬み、監視し続けていた。
そして彼女の恋人達を、闇に紛れ、襲った。
愛するが故の凶行。
彼女は、その歪んだ愛情に気付き、初めて恐怖を感じた。
震え、そして、祈る。
これが馬鹿な憶測であり、杞憂に終わってほしい、と。
彼女が犯人だと推測する携帯電話の番号は、
今までの恋人達と同様に、メモリに登録されている。
でも、もし違ったら?
彼女は、タクシーの中で悩み続ける。
答えが出ないまま、タクシーは家の前で止まった。
ワンメーター分の料金を支払い、車から降りると、
彼女は玄関のドアを開けた。
玄関のドアを開けると、彼女の帰宅を待ちかねていた母親は、
いそいそと、夕食を食卓へと並べ始める。
彼女は不安を消そうと、居間のソファーに座ると、
リモコンで、テレビの電源を入れた。
テレビから流れる音で、彼女は気付かなかったが、
バックの中に入れてある電話が、震えていた。
着信は、非通知。
電源をつけてしばらくし、玄関のドアが開き、
父親が帰ってきた。
額から汗を流しながら。
今日は、とても、寒い日なのに。
back