Short Story…





Short Story No 129
大きな事件



それは、とても大きな事件だった。

そいつは、人を、殺した。
一人や二人じゃなく、大勢の人間を無差別に殺した。
背負ったバックに入りきらないほどの数多くの凶器で。

気に入らない者を、嫌いな者を、言うことを聞かない者を、
注意した者を、抵抗した者を、泣きながら命乞いをする者を。
子供も、大人も、同世代の人間もお構いなし。
何人も何人も殺した後、そいつは、最後に自分を殺した。

その事件は、瞬く間に世界中で報道され、
様々な議論を生んだ。

なぜ、こんな事件が起こったのか?
動機は何だったのか?
賠償はどうすべきか?
対策の術は?
今後、未然に防ぐためにすることは?

多くの団体や、様々なメディアで、対策が唱えられ、
誰が悪い、誰々のせいだと、多くの視点から、犯罪の根を突き止めようとする。
それからは議論や討論が始まり、答えが導き出されても、
また新しい問題に直面し、それを指摘される。
そして議論は続いていく。答えも出ないままに。

そのうちに僕たちは、すぐにこの事件を忘れる。
新しい事件が発生すれば、その事件が大きければ大きいほど、早く忘れる。
きっと自分が被害者にでもならない限り、すぐに忘れていく。

それは、とても大きな事件だった。
だけど、もう、犯人の名前すら覚えちゃいない。



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