Short Story…
Short Story No 137
歌
また今日もアイツが大きな声で歌ってる。
下手糞な歌を歌ってる。
誰かは知らない。
どこから聞こえてくるのかもわからない。
聴いたことのない歌を、甲高い声で歌ってる。
毎日毎日歌ってる。
マンションの他の住民は迷惑に感じないんだろうか?
頭がおかしい奴を相手にするのが嫌なのかもしれない。
こんな夜遅く、こんな大声で歌っているのに。
窓を閉めても、聞こえるのに。
マンションを虱潰しに調べてもわからない。
どこから聞こえてくるのかわからない。
一室一室ドアに耳を欹てたのに。
隣のマンションも調べた。
その隣も、またその隣も。
どこも静かで微かな生活音しか聞こえない。
それでも歌声は、部屋に戻りしばらくすると聞こえてくる。
管理会社に電話した。
何度も何度も電話した。
ご迷惑をおかけします、申し訳ありません、探しておきます、
張り紙をしたのですが、なんて、責任逃れしか言わない。
頭のおかしい奴を、同じマンションに住まわせてるってだけでも頭にくるのに。
もっと頭にくるのが、うちに遊びに来た奴は皆が皆、口を揃えて、
そんな声聞こえないなんて言う。
おかしいだろ。
あぁ、頭にくる。
どうして対策を講じない。
なんで聞こえない。
今だってアイツは、こんなに大きな声で歌ってるのに。
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