Short Story…
Short Story No 176
何のために
家に帰ると子供が死んでいた。
何かあればこのボタンを押すようにと教えていたのに。
携帯は1度として鳴ることはなかった。
何度も何度も口を酸っぱくして教えていたのに。
手本を見せ、やり方も理解させたていたのに。
こうするの、わかった?
そう聞いて元気よく、うん!なんて返事するものだから安心してた。
理解してると思ってた。
それに、携帯の使い方くらい理解できる子だと思ってた。
こんなに頭が悪い子だって思わなかった。
何日か家を空けただけでなのに。
どうしよう。
誘拐されたことにしようか?
鍵を壊して、あの人の靴を借りて、
その靴で足跡をつけ、誰かが侵入したように見せるとか。
そして山奥にでも埋めたら誰も気付かないかも。
頃合を見て、泣きながら被害届けを出すとか。
同情してもらえるかな?
疑われないかな?
どうしよう、どうしよう。
こんなことになるんなら、
やっぱり産まなきゃよかった。
反対を押し切り、何のために、産んだんだろう。
持たせていた携帯。
食堂のテーブルの上に置かれていた。
充電が切れていた。
ハンドバックの中の携帯。
そういえば、切っていた。
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