Shorｔ Story…

Short　Story　No 183
飼い主



「うちの子は器用な子なんですよ。
お手や伏せなんて最初からできましたしね。
でも、後ろ足だけでこう、人間みたいに歩くっていうのは、
さすがに難しかったみたいで、随分と訓練させました。
そもそも、きっかけはＴＶの番組だったんですよ。
うちの子にそっくりな犬が器用に歩いているのを見て、
あぁ、犬ってこういうこともできるんだなと感心させられたんです。
犬は賢いですからね。
教えてあげればきっと何でもできるんだって思って。
それからは猛特訓ですよ。
上半身を持ってやって、後ろ足だけでも立てるんだよってことを、
教えて、実感させてやるんです。
そして体を持ったままゆっくり歩かせてあげる。
でもそれだけじゃ難しいんですよ。
以前は、四本の足で歩いてたわけですからね。
どうしても昔の癖が出てしまう。
だから二本足で立つことが生きるために重要なことなんだよって
わからせてあげないといけなかったんです。
立たないと届かないような場所に餌を置いたり、
天井から餌を吊るしたり本当に大変でした。
今ではこうして軽々と歩いているように見えますけど、
前は全然ダメだったんです。
いやいや本当ですよ。
私が足を切るまでは、何度教えても歩いてくれなかったんだから。
もし次にまたペットを飼うなら、
前足だけで歩く犬っていうのも、
かわいいかなと思ってるんですけどね」



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