Short Story…
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Short Story No 190
鈍感
さっき、人が飛び降りた。
外は小雨が降っている。
だから外には何人もの警察官や鑑識が傘もささず、
現場を荒らされないよう待機していた。
下には夥しいほどの血痕があったし、
人の形をなぞった線が、チョークでを書かれ、
血痕周辺には片仮名で、アタマと書かれていた。
部屋に来た警察は、悲鳴とか聞こえませんでしたかと僕に聞く。
別に聞こえなかった。正直にそう答える。
何もかもが嫌になって、衝動的に、飛ぶ。
こんなこと、よくある話なんだろう。
こんなこと、頻繁に起こっているんだろう。
今日、家にいなければ、きっと知ることもなかったはず。
教えてもらわなければ、きっと気付くこともなかったはず。
知らなければ、それで済んだ話。
いわく付きの場所。
いわく付きの部屋。
朝が来て警察や鑑識の姿は消え、
血痕は、雨が洗い流してくれていた。
ここで誰かが死んだって事実は、消えないけれど。
気付かないだけで、こんな場所はどこにでもある。
よく行くコンビニの裏だとか、通勤の際通る踏み切りだとか、
今住んでるマンションだとか。
もう、慣れてしまった。
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