Short Story…
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Short Story No 239
いつも思うこと
その男は病んでいる。
誰かに話したり、相談することもないが、
暴力的で危険な思想に溺れ、
いつだって誰かを傷つけたいと思っている。
傷つける。
男が望むのはそんな生易しいものじゃなく、もっと残酷。
できることならば滅多刺しにしてやりたいと思ってる。
男の仕事はサービス業。
低価格と速さが売りの仕事。
このところの不況も手伝い、客足が途絶えることはない。
客の大半は過度の期待をするわけでもなく、男の店に訪れる。
出来が良かろうが悪かろうが評価されるわけでもなく、
客と会話をすることも殆どなく、
黙々とただ手を動かし、仕事をこなす。
今日はあと何人の客が来るのだろう。
男はうんざりとした表情で手を動かし、
鮮血が飛び散った店内や、血みどろになった客の姿を妄想する。
やれないことはない。
男は、自分の手を見つめる
左手には櫛、右手には鋏。
その右手にそっと力を込め、力を抜く。
そしてまたいつものように指先を機械的に動かし客の髪を切っていく。
切りながら、いつものように男は考える。
いつだってやれないことはない。
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