Short Story…




Short Story No 270
見殺し



冬の夜、空腹を感じ何か食べようと冷蔵庫を開けたが、
食べるものは何も無かった。
戸棚に買い置きしていた乾麺やインスタント食品の類もない。
24時間開いているスーパーにでも行こうと外にでる。
小雨が降っていた。

まだ春には遠いらしい。
吐いた白い息を眺めそんなことを思う。
雨夜の街、傘をさし歩いていると時折猫の鳴き声。
目的地に進むにつれ、その声は大きく、大きく。
発情期ってわけでもないだろうに、
妙な声で鳴いていた。

どうやら声の主は目の前にある小さなアパートの二階から。
電灯は点いていない。
そういえばここはペット可だったなと思い出す。
何気に声のする方に視線を移し目を凝らすと、
そこはベランダ。鉄格子の隙間からエアコンの室外機と裸の赤ん坊が見えた。

あれから何ヶ月か過ぎて梅雨に入り、
あの日のような小雨が今日も振っている。

幸いというか、このアパートの前を通ると時折泣き声が聞こえる。
誰かが通報したのか、それとも気が変わったのか。
もしくは、見殺しにする気なんてなかったか、単に死ななかっただけか。
もしかしたら、別の部屋に住む赤ん坊が泣いているだけなのかもしれない。

それでも多分助かったんだろうと思う。
きっとあの泣き声が嫌だったんだろう、もう面倒だったんだろう。

あの子の親も、俺も。






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