Short Story…




Short Story No 273
悪運



男が飛び降りた。
死ぬために。

運がよかったのか悪かったのか、助かってしまった。
運がよかったのか悪かったのか、一命は取り留めた。

発作的に飛び降りたのは自室のベランダからで、
それほど高くない階数だったから。
その大きな音のせいか、深夜だったにも関わらず、
同じマンションの住民の発見が早かったから。

幾重にも繋がれた管、巻かれた包帯。
病院には連絡を受けた家族が。
父親は沈痛な面持ちで、母親は涙。
年の近い兄弟は、憤りの表情を。
そして各々の心情や疑問を彼に語りかける。

もう彼は飛び降りることはないだろう。
家族の悲しむ顔を見たからでも、改心したからでもない。
もう動くことはおろか、目も開くことすらできないから。

運がよかったのか悪かったのか、助かってしまった。
運がよかったのか悪かったのか、一命だけは取り留めた。






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