Short Story…
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Short Story No 292
ずっと
その子は、ずっとスマートフォンをいじっている。
カフェにいる間もカフェを出てからもずっと。
駅までの移動中も、改札でも、駅で電車を待っている間も、
当然、電車内でもそう。
せわしなく画面を指先で触れ続ける。
目的の駅についてからも指先が止まることはない。
ずっと小さな液晶画面を見続け、
前を見る時といえば、信号を確認するくらい。
だから自転車にぶつかりそうになる。
大通りをしばらく歩き、少し細い路地に入り、
3階建てのマンションの1階、一番奥の部屋。
その子は、のろのろとバックから自宅の鍵を取り出す。
指先を動かしながら、液晶画面を見つめながら。
きっと部屋の中でも充電しながら、
スマートフォンをいじっているんだろう。
食事しながら、TVを流し見しながら。
指先を動かし、短いメッセージやスタンプを送信し続ける。
その友達はどんな奴?
そこまで仲がいい友達ばかりでもないだろうし、
たいした用件でもないだろう。
だけど僕は、その友達やどうでもいい話題に感謝しないといけない。
ありがとう。
おかげで、住んでいる部屋がわかった。
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