Short Story…





Short Story No 69
できること



一瞬の出来事。
目を覆った。

靴がアスファルトを蹴る音。
悲鳴にも似たブレーキ音。

目の前、本当にすぐ目の前で、少年が車に轢かれた。
あまりスピードが出てなかったのがせめてもの救いだろう。

少年はピクリとも動かない。
少年といっても、小学2〜3年程度の年齢に見える。
普通なら、痛みで泣き喚く年代のはずだ。
だが、少年は倒れたまま、動かない。

コンビニエンスストアのすぐ目の前の交差点。
信号は赤だった。

車のドアが開く音、駆けつける男の叫び。
その後方から鳴るクラクション、そして罵声。


__どうすればいい?
__何か、手伝えることは?
__どうすればいい?
__救急車でも呼ぶか?


駆けつけた男は、少年を揺り動かし、大丈夫かと
何度も呼びかけ続ける。


__冷静さを失っているな。
__こういう時は、冷静にならなければいけないのに。
__動かすなよ。
__さぁ、どうする?


野次馬が集まってくる。
店員、ホスト風の男、初老の男、高校生の女、主婦。
次第に、人が人を呼び、野次馬は増えていく。

誰かが、消防署に電話をかけている。
焦りながらも、必死に事情と、この場所を告げているようだ。


__これで安心だ。
__俺にできることは?
__何か、できることは?
__何かしないといけないんじゃないか?
__何か、何か、何か・・・・・・

__そうだ。


俺は、少年の体を揺すり喚き続ける男に近づき、少年を見る。
青ざめ、生気が無いぐったりとした顔。
顔には擦り傷に加え、鼻血が流れている。
少年は後頭部からも血を流しているようだった。

また、左足は普通だが、右足は膝の部分から不自然に曲がり、
腹部へと投げ出され、折れてるのが容易に見てとれた。

俺は、喚き続ける男に、
動かしてはいけない、寝かせたままにするようにと告げる。
我に返り、驚愕の表情を浮かべる男。

俺はその男から少し離れ、ポケットから携帯電話を取り出し
少年に向け、シャッターを切った。



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